老後に株式投資の失敗で作った借金を個人再生で債務整理!
老後の資産の運用のために、貯蓄していた預貯金や、あるいは退職金を用いて株式投資を行う定年前後の年配の方は珍しくありません。
しかし、株式投資は失敗すると支払いきれない借金が一晩で生じることもあります。
自己破産手続をすれば、原則として借金を全額無くすことが出来ますが、ほとんどの財産や家を失うことになります。
老後資金を超えるような借金を背負ってしまったとしても、出来れば、老後の貯蓄やマイホームを残したまま、借金の負担を減らしたいところです。
そのような場合に便利な債務整理手続が、個人再生手続です。個人再生手続を利用すれば、財産の処分を回避し、マイホームを維持しながら、借金の大幅減額が見込めます。
ここでは、定年前後の年配の方が、株式投資で借金をしてしまった場合の個人再生手続について説明します。
このコラムの目次
1.個人再生手続を利用するべき理由
個人再生手続は、支払いきれない恐れのある、借金などの金銭支払い義務、つまり「債務」(債権者から見れば「債権」)の一部だけを返済すれば、残る借金が免除される債務整理手続です。
裁判所に、借金の一部を返済するための計画である「再生計画」が履行可能であると認可してもらうことが手続の中心となります。
年配の方が、株式投資で作った借金を債務整理する場合、個人再生手続が向いている理由は以下の通りです。
(1) 財産が裁判所に処分されることがない
①自己破産手続での財産処分
自己破産手続では、債権者に担保に取られていない財産であっても、一定額以上の財産は、債権者への配当のため、裁判所に処分されてしまいます。
・現金
99万円までしか手元に残せません。
・預貯金
ほとんどの裁判所は20万円を超える場合、全額を処分します。
・生命保険の解約返戻金
20万円を超えていれば、強制的に解約され返戻金が処分されることが原則です。
・退職金
受け取っていれば現金や預貯金として処理されます。
受け取っていなくとも、8分の1か4分の1相当の現金を裁判所に納めなければなりません。
・マイホームなど不動産
抵当権がついていなくても、裁判所の処分対象となります。
年配の方の場合、高額になりがちな生命保険の解約返戻金や退職金、ようやくローンを完済したマイホームを処分されてしまうことは、老後の生活において、大きな痛手となる恐れがあります。
②個人再生手続では財産が処分されない
個人再生手続では、裁判所が財産を処分することは一切ありません。「清算価値保障の原則」があることにより、配当がなくとも債権者の利益が保護されているためです。
清算価値保障の原則とは、「再生計画での返済額は、自己破産での配当見込額(これが「清算価値」です)以上でなければならない」というルールです。
この「清算価値」は、年配の方が個人再生手続をする上で大きな問題となることが多いため、後で詳しく説明します。
(2) 住宅ローンの抵当権があるマイホームを守れる
個人再生手続であっても、借金の担保となっている自動車やマイホームは、債権者により処分されてしまうことが原則です。
特に年配の方の場合、マイホームについては、若いころに組んだ住宅ローンが返済まであとわずかということもあるでしょうし、定年退職で受け取った退職金の一部を頭金に、マイホームの再築やリフォームをされた方もいるでしょうから、マイホームを手放したくないという思いはより強いことでしょう。
個人再生手続の最大の特長は、抵当権がついているマイホームであっても、一定の条件を満たせば、住宅ローンを減額してもらえない代わりに、滞納され差し押さえられているマイホームであっても、債権者により処分されることを回避することができる点にあります。
この制度は、住宅資金特別条項と呼ばれています。
(3) 株で借金を作ったことがさほど問題とされない
株で借金を作ってしまった場合、投資というよりギャンブルのようにのめりこんでしまったというときもあるでしょう。
浪費やギャンブルで借金を作ってしまったことは、自己破産手続では借金が免除されない恐れが生じるなどの問題の原因になるのですが、個人再生手続では、直接問題とされることはありません。
ただし、弁護士と相談して以降にまた株に手を出せば、裁判所に、借金を減額しても完済できないだろうといわれて、再生計画を認可してもらえない可能性が生じますので、ご注意ください。
(4) 仕事に制限がかかる恐れがない
定年前の方の場合、定年までは仕事をしっかりこなしたいという希望があると思います。
しかし、自己破産手続をすると、手続中は、他人の財産を扱う資格で働くことができなくなる恐れがあります。警備員や保険業界、金融業界にお勤めの方は、少なくとも手続中は、勤務先に依頼して、転属や休職をする必要があります。
一方、個人再生手続では、そのような制限は一切ありません。手続中でも仕事に支障が生じることを心配する必要はありません。
2.個人再生手続をする上での注意点
年配の方が、老後貯蓄を守りながら返済すべき借金を減らそうとする場合には、手続上もっとも重要な、「再生計画の履行可能性」が大きな問題になります。
再生計画上の返済額は、一般的な手続の種類では、法律が定める最低弁済額と、自己破産での配当見込額である清算価値のいずれかより大きい金額に定められます。
老後貯蓄のある年配の方が個人再生手続をする場合には、清算価値が大きくなるリスクが無視できません。
また、定年後の方ですと、年金収入で十分な返済を続けられるかも大きな問題です。
さらに、レバレッジ取引と相場急落が原因でロスカットが間に合わず、証券会社にだけ高額の借金を負った場合には、証券会社に手続に反対されてしまうリスクもあります。
以上の、返済額、返済原資、債権者の反対について、以下、個別に詳しく説明します。
3.清算価値による再生計画上の返済額の増加
清算価値に計上される財産は様々で、また、各地の裁判所により細かい運用が異なっています。
とりあえず、ここでは、問題になりやすいものを取り上げましょう。
(1) 退職金
将来受け取ることができる退職金のうち、8分の1または4分の1が清算価値に計上されます。
いずれの割合になるかは、退職時期までの近さや、退職時期が決まっているかなどの事情をもとに、各地の裁判所の運用次第で決められます。
年配の方ですと退職金が高額になるため、弁護士にいずれの割合になる可能性が高いのか、しっかりと確認してください。
再生計画の認可決定までに退職金を受け取ってしまうと、現金や預貯金扱いになり、ほとんどが清算価値に計上されるため、手続のタイミングには注意が必要です。
(2) 生命保険の解約返戻金
債務者本人名義のものはもちろん、他人名義のものであっても、保険料の支払いをしているなどの事情次第で、清算価値に計上されることがあります。
契約者貸付や、年金代わりに取り崩しをしていた場合には、その分清算価値から差し引かれますが、直前の取り崩しは、違法行為を疑われかねません。
弁護士に事前の確認をするまでは、安易な現金化は控えてください。
(3) マイホーム
住宅ローンが残っていなければ、評価額がそのまま清算価値に追加されます。非常に高額となるリスクがあるため、特に注意が必要です。
ローンが残っている分は清算価値から差し引かれます。
ただし、住宅資金特別条項を利用してマイホームを債権者に処分されないようにすると、住宅ローンは減額されないため、再生計画上の返済との二重払いが出来るかが問題になります。
不動産の査定方法や業者により、査定額は大きく変わりますから、裁判所が採用している査定方法などを弁護士に確認したうえ、出来る限り金額の少ない査定を見つけ出してください。
(4) 手続前に返済や取引をすると清算価値が増加することも
自己破産手続では、配当されるべき財産が不当に債務者から流出した場合、その財産を配当のために取り戻すことができます。このことが、個人再生手続の清算価値の計算方法にも反映されています。
借金全額を支払えないのに特定の債権者にだけ返済することは、「偏頗弁済」と呼ばれています。
偏頗弁済は、債権者を平等に取り扱わなければならないという個人再生手続の重要なルール(「債権者平等の原則」と呼ばれています)に違反するため、清算価値に計上されます。
投資の損失を穴埋めするために、友人や親族、同僚から借金をしてしまっている方は多くいるでしょうが、誠意をもって謝るにとどめてください。弁護士の指示があったことを伝えて、返済をしないようにお願いします。
また、他人に財産を譲ったとしても、その分はちゃんと清算価値として支払わなければなりません。
もし、財産の譲渡を申告しなかった場合、財産を隠したとして、罪に問われる恐れがあります。預金口座や生命保険の名義を他人に変えるようなことは、財産隠しとされやすいので、絶対にやめてください。
4.再生計画上の返済のための資金捻出
定年後の方の場合、年金だけでは返済困難なことが多いでしょう。アルバイトや元勤務先での再雇用などを活用することは、ほとんどの場合不可欠です。
他には、親族からの援助や、財産の一部を取り崩すことで補填する方法があります。
(1) 親族の援助
親族とはいえ、その援助を、債務者本人自身の収入に当然に付け足せるとは限りません。
- 援助できる経済的余裕があるのか
- 援助が続けられなくなる事情が将来ないのか
- 一定額以上の援助を本当に続けられるのか
などの事情について、裁判所を説得する必要があります。
親族の収入や資産、家計状況を示す資料、援助継続を約束する親族の念書などを集めましょう。
家計が同一である配偶者の収入は、全額を債務者の収入に追加してもらいやすいのですが、問題は、子どもからの援助です。
特に子どもが結婚していれば、将来の孫の教育費のことも考えると、援助できるのか、今はできるとしても将来はどうかといったところまで、現実的な検討と根強い裁判所への説得が必要です。
(2) 財産の取り崩し
定年前後いずれにせよ、預貯金や生命保険の解約返戻金が重要な資金源となります。
生命保険については、年配の方ですと、解約すると再契約が困難でしょうから、慎重に判断してください。
問題は退職金です。定年前の方の場合、退職金の清算価値は多くても4分の1ですから、退職金により、清算価値にもとづく再生計画上の返済を一気にこなすこともできます。
しかし、定年後の方の場合、退職金は、株式投資やマイホームの新築・リフォームの頭金のためほとんど使ってしまっていることでしょう。
現金や預貯金として残っていても、ほぼ全額が清算価値になってしまいます。
5.債権者の反対
一般的に用いられる個人再生手続の種類である、小規模個人再生は、債権者の多数決で反対される可能性があります。株式投資の借金が証券会社に集中している場合には、証券会社の意向に手続の成否を握られてしまうのです。
このような場合には、もう一つの個人再生手続の種類である、給与所得者等再生を利用することになります。
給与所得者等再生では、債権者が反対できないからです。
その代わり、
- 安定した収入が必要なこと
- 返済額を決める基準に、可処分所得の2年分が追加されること
といった点で、債務者に不利になります。
すでに定年退職されている方の場合、年金は安定した収入ですし、可処分所得も少ないので、給与所得者等再生のデメリットはさほど問題になりません。
一方、定年を間近に控えている方の場合、再生計画の期間中に定年退職するとなると、再雇用されても収入は一気に減少してしまうことが大きな問題となる場合があります。
6.年配の方の株式投資の失敗による債務整理は弁護士に相談
長い人生、ようやくのんびりできると思った矢先に、株式投資の罠にかかり、悪夢のような現実にさいなまれている方でも、個人再生手続を用いれば、老後の貯蓄やマイホームを維持しつつ、借金の負担を減らすことができる可能性があります。
ただし、財産を守る代償として、清算価値保障の原則のために、借金をさほど減らすことができないリスクがあります。
財産をあきらめ自己破産するか、それとも、なんとか個人再生手続でがんばっていくか、残り少ないこれからの人生を少しでも良くするためには、専門家である弁護士による手助けのもとで、決断と行動を重ねていくことが重要です。
泉総合法律事務所では、個人再生や自己破産により借金問題を解決した実績が多数ございます。是非ともお気軽にご相談ください。
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