交通事故紛争処理センターを利用する注意点
交通事故紛争処理センターは、無料で専門家により保険会社などとの示談交渉の紛争解決をしてくれるADR(裁判外紛争処理機関)です。
しかし、交通事故紛争処理センターも万能ではありません。
基本的に中立の立場の組織ですから、被害者様の利益だけでなく、保険会社側のことも考えて示談金を算出します。
「紛争処理」のためには損害額の確定が必要なため、治療中の利用は一切できません。証拠収集や後遺障害等級認定のサポートをしてくれないのです。
そのため、交通事故紛争処理センターを利用しても、満足のいく結果とならないおそれがあります。
万全の準備を整えて保険会社と交渉し、少しでも多くの損害賠償金を手に入れられるようにできるのは、依頼を受けた弁護士だけです。
法律相談だけなら無料の弁護士は珍しくありません。
交通事故紛争処理センターの利用をお考えでも、治療中のできる限り早くに弁護士に相談するメリットを今回はご説明します。
このコラムの目次
1.交通事故紛争処理センターの立ち位置
交通事故紛争処理センターの基本的な立ち位置は「中立・公正」です。
交通事故紛争処理センターは、無料法律相談で弁護士が制度知識や見通しを説明してくれる・保険会社だけがセンターの最終判断である裁定を拒否できないなど、被害者様に有利な点があります。
しかし、センターが第三者としてのスタンスを崩すことはありません。被害者様だけでなく加害者側の利益も保護するのです。
和解のあっせんや審査では、被害者様自ら法律的な主張をしなければいけません。
一方、保険会社は、示談に応じないと本気で争ってくることもあります。相談担当弁護士からレクチャーされた付け焼刃の知識で太刀打ちすることは難しいでしょう。
センターの手続では、保険会社の主張も踏まえて判断がされます。
次に説明するとおり、証拠が不十分なケースなどでは、交通事故紛争処理センターを利用しても、保険会社の提示額以上の増額が見込めないおそれすらあるのです。
2.交通事故紛争処理センター利用の注意点
(1) 示談交渉の武器となる証拠集めのサポートなし
交通事故紛争センターの和解案や裁定でも、証拠が不十分だと満足のいく金額にはなりません。
示談交渉の段階でも、将来裁判になることを見据えて話し合いがされますから、裁判で勝てる証拠が揃っていなければ、交渉を有利に運ぶことはできません。
ところが、交通事故紛争処理センターは被害者様の証拠収集にほとんど役に立ちません。
というのも、治療が終わらなければ一切手続を利用できないからです。
大切な証拠は、ほとんど治療中に作られます。
検査結果やカルテなどの医療記録を想像してみてください。治療終了後に作成される診断書や意見書などもカルテなどに基づくものですが、治療中に専門家の助言を受けておかなければ、適切な検査を受け、症状を正しく医師に説明することは難しいのです。
交通事故紛争処理センターは、損害額が確定できないと利用できません。治療中だけど将来センターを利用するから…と言って相談することもできないのです。
また、後遺症が残ってしまったときにはより大きな問題となります。
後遺症の損害賠償金は、「後遺障害等級認定」を受けなければ支払ってもらえないことが大原則です。この認定は難しいことが多く、証拠集めがより重要になります。
交通事故紛争処理センターは、認定のための証拠集めについてサポートしてくれません。それどころか、後遺障害等級認定に関する問題には一切関わりません(他の専門機関に審査が一元化されているためです)。
治療中にどのように証拠を集めるべきなのか。それを知るには、被害者様の具体的な事情を法律相談で聴き取った弁護士のアドバイスを受けるべきでしょう。
(2) 保険会社対応の負担を減らせない
治療中に相談だけでなく依頼まですることで、保険会社と対応する負担を減らすことができます。弁護士が保険会社との対応を肩代わりしてくれるからです。
治療中の段階ですでに保険会社に不信感を持たれているのであればよくお分かりかと思いますが、保険会社からの連絡に対応することは被害者様にとって大きな負担となることがあります。
治療中に利用できず、あくまで中立の立場にすぎないセンターの相談担当弁護士は、保険会社との連絡を肩代わりすることはあり得ません。
一方で、被害者様の依頼を受けた弁護士は、被害者様に代わって加害者側の保険会社からのほとんどの連絡を肩代わりできます。
(3) センターは平日昼間のみで休業補償もなし
交通事故紛争処理センターの手続には、弁護士に依頼しないかぎり、原則として被害者様ご本人が出席しなければいけません。
センターは平日しか利用できません。そのため、被害者様ご本人が働いている場合は仕事を休むことになるでしょう。
その日の手続自体は1時間程度で終わることが多いでしょうが、交通事故紛争処理センターは全国に11か所(2019年現在)しかありませんから、ほとんどの方はセンターへの往復だけでかなりの時間がかかります。
しかも、センター利用に関して休業補償はされません。
ケガで入院した、通院のために休んだ、そのようなケースでは「休業損害」と呼ばれる損害賠償金を有給休暇取得分も含めて請求できますが、センター利用ではそのようなことはできないのです。
交通費の請求もできません。例外的に被害者様のご家族が出席する場合も同様です。
弁護士に依頼して交通事故紛争処理センターでの手続を行えば、弁護士に支払う日当を考えても、出費とセンターに出向く手間を天秤にかければ、弁護士に依頼したほうがお得でしょう。
(4) 事故内容や相手方によっては利用できないことも
交通事故紛争処理センターには、治療中には利用できない・後遺障害等級認定には関わらないなどの制約があることはすでにお話ししました。
それ以外にも、事故の内容や加害者の保険契約に関する事情によっては、手続を利用できないことがあります。
自転車事故は対象外
交通事故紛争処理センターの手続を利用できる交通事故は、加害者が自動車、バイク、いわゆる原チャリなどに乗っていたもののみです。
つまり、「加害者が自転車で」被害者様をケガさせたケースは、一切センターの手続を利用できないのです。
ちなみに、被害者様が自転車に乗っていて加害者の自動車にはねられたケースはもちろん利用できます。
中小共済の中にはセンターを拒否しているものがある
実は、交通事故紛争処理センターはどんな相手に対しても利用できるものではありません。裁判所ではないので、強制力を持っていないからです。
保険会社が審査会の裁定に従うのは、交通事故紛争処理センターと事前に協定を結んでいるからです。
中小規模の共済の中には、協定を結んでいないところもあります。
加害者が加入している保険が交通事故紛争処理センターと協定を結んでいない場合は、事実上交通事故紛争処理センターの利用は意味がありません。
加害者側の共済が交通事故紛争処理センターに事前に協定を結んでいるか、共済またはセンターに確認し、協定を結んでいないのであれば、弁護士基準で示談交渉するには弁護士に依頼することになります。
3.治療段階から弁護士へご相談ください
交通事故紛争処理センターの弁護士は、被害者様の敵ではありませんが、味方とも言い切れません。
被害者様が個人的に相談・依頼した弁護士こそ、事故内容や証拠収集の見通しと言った被害者様の個人的・具体的な事情をもとにして、これまでの裁判所の判断などの実務的知識や経験の範囲内で、できる限り示談金を増額できるよう保険会社と交渉してくれます。
交通事故紛争処理センターの手続でも、和解のあっせんや裁定を有利に進められるよう力を尽くしてくれるでしょう。
泉総合法律事務所は関東に多くの支店を展開し、交通事故の経験が豊富な弁護士が多数在籍しております。また、交通事故紛争処理センターでの手続の代理も受け付けております。
初回相談は無料です。皆様、どうぞお気軽にご相談ください。
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