日常生活状況報告書の準備|書き方や後遺障害認定のポイント
交通事故の衝撃で脳の神経が損傷してしまうことで、記憶力や行動力など、人が人らしく生きるために重要な脳の機能「高次脳機能」に障害が生じてしまう高次脳機能障害。
高次脳機能障害の後遺症は、被害者様やその周囲の皆様に大きな悪影響を一生与え続けるおそれがあります。
そのため、後遺症の損害賠償請求をするため、後遺障害等級認定を受けることがとても大切です。
後遺障害等級認定では、被害者様が日常生活を送るうえで事故前と比べて問題となっていることの報告書を、被害者様のご家族や周囲の方々が作成することになります(日常生活状況報告書)。
その準備としては、治療中から具体的な問題エピソードをメモし、医師など医療機関関係者と連絡を取り合うことが必要です。
ここでは、高次脳機能障害の治療を受けている被害者様のご家族向けに、後遺障害等級認定手続に備えて、どのように日常生活状況報告書の準備をするべきか、日常生活状況報告書の書き方や後遺障害と認定されるためのポイントを踏まえて説明します。
このコラムの目次
1.日常生活状況報告書の別紙の書き方
日常生活状況報告書には以下のような既定の書式がありますが、被害者様の症状の内容や程度を正確に記載するには不十分なものです。
症状を十分に報告するには、事故以前にはなかった日常の些細な問題をできる限り具体的名エピソードとして書き上げる必要があります。
書式の空欄ではスペースがそもそも不十分です。よって、別紙を添付して文章を詰め込むことになります。
記憶力、判断力、行動力、計画性、そして協調性などの性格…どの高次脳機能がどれだけ低下したかは被害者様により異なります。
さらに、被害者様の性別や年齢、職業や周囲の環境次第で、高次脳機能の低下が日常生活にどのような支障を生じさせるかも変わってきます。
この日常生活への支障こそが、高次脳機能障害の「症状」なのです。
(1) 事故前と比べた変化に注意
「以前はできていたのに、交通事故の後にできなくなったことがある」「事故前はこんな人じゃなかったのに、まるで人が変わってしまったようだ」
このように、事故以前と比べて生活に支障が生じるような認知能力や性格の変化には特に注意してください。
単に「物忘れが多い」だけでは不十分です。
事故で高次脳機能障害になってしまったために、高次脳機能が低下して、生活に以前にはない問題が生じているということがポイントです。
このポイントを審査機関に伝えるためには、事故前との比較が不可欠です。
些細であっても、確実におかしくなってしまったことに注意しましょう。
とはいえ、それに説得力を与えるには、次の「具体性」が必要となります。
(2) 具体的なエピソードを書く
被害者様の日常的な支障は、できる限り具体的に報告する必要があります。
ですから、被害者様に何かおかしなことがあれば、それをいつ・誰と・どこで・どうやって・どうなった、というような「エピソード」としてメモしてください。
高次脳機能障害は、客観的な証明がとても困難です。
脳神経の損傷は、画像検査や意識障害の重さや長さで証明できることがあります。
認知力や判断力などなら(限界はありますが)後半で述べる「知能検査」である程度は客観的に測定可能です。
しかし、日常生活の支障という症状は、どうしても客観的な裏付けがしにくいものです。
そこで、できる限り具体的に記載することで報告の説得力が増します。
既定の書式である日常生活状況報告では、衣食住・外出したときの社会的なルール・他人とのコミュニケーションなどについて、「被害者様の言動」「一日を通した生活の様子」「周囲からの手助け」「手助けをすることでうまくできるようになるか」などをポイントにしています
ですから、たとえば、以下のようなトラブルを日々メモし続けるのです。
- 前は穏やかな性格だったのにすぐ怒鳴りつけるようになった。
- 約束を守る人だったのに、約束したこと自体すぐに忘れてしまうようになった。
- 車の多い真昼に赤信号を平気で無視してしまうようになった
- 行列に割り込んで非難をされたら怒鳴りつけるようになってしまった
被害者様の生活は、家庭だけに限りません。職場や学校などでの被害者様の症状も報告することになります。
しかし、高次脳機能障害はわかりにくい障害。認定申請の直前に報告書の作成を依頼しても、同僚や担任の教師から、「ちょっと違和感があったが、それを後になって思い出して書くとなると難しい…」と言われてしまうおそれがあるでしょう。
ご家族から職場や学校に対して障害や認定のポイントを示し、定期的に連絡を取るなどして、具体的な問題が生じたエピソードを記録してもらい、認定申請の際の報告書作成に備えるよう促してください。
2.病院関係資料との整合性に注意
被害者様の症状を記録したメモは、医師、看護師やリハビリの専門職の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など、医療機関の関係者と被害者様の様子について認識を共有するために役立ちます。
被害者様の症状を審査機関に伝える必要書類は日常生活状況報告書だけではありません。以下のものも重要な証拠となります。
- 医師が作成した診断書や報告書
- 知能検査
- 看護記録やリハビリ記録
日常生活状況報告書が、診断書や知能テスト結果、看護記録など他の医療記録と比べて、記載内容があまりにかけ離れている、矛盾していると、認定を受けられなくなるおそれが高まってしまいます。
日常生活状況報告書のために作ったメモを見せながら、医師や看護師などと被害者様の症状の具体的な内容や程度を説明し、適切な診断や検査、記録がされるように準備しましょう。
(1) 診断書や報告書
診断書の中でも「後遺障害診断書」は後遺障害等級認定手続で最も重要な診断書です。
症状固定後に、医師に作成を依頼することになります。
後遺障害診断書に記載された被害者様の症状や知能テスト検査結果が、日常生活状況報告書と一致していることは必須です。
治療中、医師に具体的な症状のエピソードのメモを見せて丁寧に説明を続けましょう。
高次脳機能障害では、他の診断書や報告書も大きな役割を果たします。
医師が事故直後から毎月作成している「経過診断書」は、高次脳機能障害として後遺障害等級認定を受けられるかどうかの判断に用いられることがあります。特に初期の経過診断書の内容は重要です。
経過診断書は後遺障害診断書と異なり、その内容を被害者様のご家族が事前や事後に確認することができません。
できる限り早くに医師に症状を伝えてください。
さらに、高次脳機能障害の後遺障害等級認定では、「神経系統の障害に関する医学的意見」という症状の報告書も医師が作成することになります。医師が作成する日常生活状況報告書のようなものです。
しかし、医師は被害者様の事故前の様子を知りませんし、事故後も短い診察時間でしか様子を確認できません。
症状固定後すぐに日常生活状況報告書をまとめあげ、それを医師に見せて「医学的意見」の作成の参考となるようにしてください。
(2) 知能テスト
高次脳機能の低下や回復過程は、知能テストである程度客観的に判断できます。
しかし、知能テストを正確に行うには、ご家族が医師に症状を丁寧に説明することが欠かせません。
高次脳機能は多様で複雑。その低下をテストするには、無数の知能テストの中から適切なものを複数選択し、継続して実施する必要があります。
ところが、医師は被害者様の症状を把握しきれません。
実際に現れた被害者様の症状からして、どの高次脳機能に問題が生じているのかを医師が適切に把握し、多くの検査の中から被害者様の能力低下を検査するためにふさわしいものを選び出すためには、ご家族が医師に説明して、症状を正確に理解してもらう必要があります。
(3) 看護記録やリハビリ記録
看護師やリハビリの専門職の方とも報告を共有しましょう。看護記録やリハビリ記録と内容が矛盾していないかが問題になる可能性もあります。
ご家族などと比べると日常を共にしているとまでは言えませんが、看護師やリハビリの専門職の方は、医師よりも被害者様に接する時間が長く、被害者様の様子を看護記録やリハビリ記録に残しています。
医師の診断書や報告書、知能テストと比べると、専門性や客観性は低いためプラスの証拠にはなりにくいのですが、一方で、あまりに看護記録やリハビリ記録の内容が日常生活状況報告書とかけ離れていると、認定はもちろん、その後の保険会社との示談交渉や裁判で不利な証拠となってしまうおそれがあります。
ご家族自身が症状を把握し、被害者様の症状を回復させるうえでも看護師やリハビリ技師との連携は大切です。入院中やリハビリ中、看護師やリハビリ技師とは互いに被害者様の様子についてよく話し合い、メモを残しておきましょう。
3.まとめ
被害者様の高次脳機能障害の症状に気付いたら、事故前と比べて何がおかしいのか、具体的なエピソードをすぐにメモ、医師や看護師など医療関係者と情報共有しましょう。
最終的に日常生活状況報告書にまとめ上げる段階にせよ、それ以前の被害者様の様子を治療中に観察してメモする段階にせよ、被害者様自身の具体的な事情でより詳細に注意すべき点は何かを知るには、まずは弁護士に相談することが一番です。
泉総合法律事務所は、これまで多数の交通事故の被害者の方をお手伝いしてまいりました。
高次脳機能障害に苦しむ皆様のご来訪をお待ちしております。
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