高次脳機能障害の後遺障害認定ポイント
高次脳機能障害は、人間らしく生きるために必要な記憶力や判断力、行動力や感情コントロール能力が衰え、生活に支障をきたしてしまう障害です。
症状が分かりづらく原因を証明しづらい高次脳機能障害の問題点は、交通事故の後遺障害の認定システムにも影響を及ぼしています。
一定の条件を満たさなければ、高次脳機能障害として審査をしてもらえないのです。
認定のために提出する必要書類も特別なものが多く、その内容が十分なものでなければ、審査を受けられても適切な認定、妥当な賠償請求ができないおそれがあります。
ここでは、高次脳機能障害の後遺障害等級認定システムを乗り越え、満足できる後遺障害等級認定を受けるためのポイントを説明しましょう。
このコラムの目次
1.高次脳機能障害の認定システム
交通事故の後遺症についての損害賠償金である「後遺障害慰謝料」や「逸失利益」を請求するには、原則として後遺障害等級認定を受ける必要があります。
その際に認定される後遺障害の等級により、後遺障害慰謝料や逸失利益をいくら請求できるかの目安が大きく変わります。
後遺障害の認定手続である「後遺障害等級認定手続」は、「損害保険料率算出機構」という第三者機関がすべて行っています。保険会社次第で認定がぶれることを防ぎ、迅速公平な認定をするためです。
しかし、高次脳機能障害は、損害保険料率算出機構自ら「見過ごしやすい障害」と呼ぶほど認定が難しい障害です。そのため、高次脳機能障害の疑いがあると認められた場合に限り、特別な認定システムにより慎重な審査を行っています。
具体的には、次に説明する審査条件を満たした場合、機構本部の自賠責保険(共済)審査会に設置されている「高次脳機能障害専門部会」で審査し、高次脳機能障害の専門家による判断を通すこととしています。
逆に言えば、審査条件を満たした高次脳機能障害の疑いがあるケースでなければ、高次脳機能障害の後遺障害として認定するための審査を受けることすらできないのです。
後遺障害等級認定手続は、必要書類だけで審査される書面審査です。被害者様の様子が実際におかしいということを診察で判断してくれません。
ですから、高次脳機能障害としての後遺障害等級認定を受けるには、審査条件を満たし、適切な後遺障害等級認定を受けるポイントが十分にある必要書類を提出できるよう、万全の準備が肝心となります。
2.高次脳機能障害の審査条件
高次脳機能障害として後遺障害等級認定の審査を受けるための条件は大きく分けて二つ。
「後遺障害診断書」で高次脳機能障害と疑われること。または、「経過診断書」やその他の高次脳機能障害に関わる事情から障害が疑われることです。
(1) 条件1:後遺障害診断書の診断名など
後遺障害診断書に「高次脳機能障害」「脳の器質的損傷」といった記載があれば、高次脳機能障害として後遺障害の審査を受けることができます。
後遺障害診断書は、後遺症に関する医師の判断をまとめた手続専用の特別な診断書です。
高次脳機能障害として審査を受けるうえでも、後遺障害診断書が大きな役割を果たします。
(2) 条件2:経過診断書の内容と障害を疑わせる事情の存在
通院先の病院は、たいてい、相手側保険会社に被害者様の状況について毎月報告する診断書を送付しています。それが「経過診断書」です。
経過診断書は後遺障害診断書に比べると一般的に重要性の低い資料とされがちですが、治療や症状の推移を確認できますので、高次脳機能障害の疑いを示す事情を見つけ出せることがあります。
経過診断書が関わる審査条件では多くの事情が考慮され、複雑で読みたくなくなります。
しかし、その中にある、頭部外傷・高次脳機能の症状・画像検査・意識障害といった要素は、審査の次の認定されるためのポイントにもつながるのです。
3.高次脳機能障害で後遺障害等級認定されるためのポイント
特別な認定システムが採用されている高次脳機能障害でも、基本的な後遺障害等級の認定条件は他の後遺障害と変わりません。
後遺症が残っているのか。交通事故が原因なのか。等級に当たるほど症状が重いのか。症状の有無や程度、因果関係を、必要書類(特に診断書や検査結果などの医療記録)で証明する必要があります。
もっとも、審査手続は非公開です。公開されている認定基準や症状に応じた等級の目安などは、具体的なことをここにかけるほど明確なものではありません。
とはいえ、多数の認定結果から認定されるためのポイントは絞られています。
それが、先ほど説明した経過診断書に関連する高次脳機能障害に関わる事情とほぼ同じ、画像検査・事故直後の意識障害・症状の内容やその推移などというわけです。
(1) 脳の損傷を示す事情
意識障害や脳画像検査の異常は、脳が物理的に損傷していることが強く疑われる事情です。
後遺障害等級認定を受けるには、事故による物理的な衝撃で生じた「外傷性の」高次脳機能障害と言える必要があります。
ですから、初診時に検査や経過診断書などで頭をケガしていたことは、後遺障害等級認定では審査を受けるためにも認定を受けるうえでもとても重要な条件になります。
もっとも、後遺障害診断書の記載による審査条件で頭部外傷が求められていないことから分かるように、事故直後の頭部外傷や意識障害、脳画像検査それらすべてがそろっていなくても認定を受けられる可能性があります。
たとえば、頭を強く打ったために脳も頭蓋骨にぶつかってしまって脳が損傷する「脳挫傷」です。事故直後の精密画像検査で脳損傷が発見されやすく、(症状をどれだけ証明できるか次第ですが)意識障害がなくとも後遺障害等級認定を受けられることがあります。
脳挫傷における脳損傷は、時間が経つにつれて画像検査に写りにくくなることがありますから、早めの精密検査が必要です。
一方、「びまん性軸索(じくさく)損傷」と呼ばれる脳損傷では、頭を強く打った場合でなくとも、事故直後に画像検査で異常が無くとも、高次脳機能障害を引き起こす可能性があります。
事故により頭を強く揺さぶられて脳の神経が千切れてしまうびまん性軸索損傷では、画像検査をしても神経線維一本一本の損傷はわかりません。事故直後に画像検査をしても異常が見つかりにくいのです。
その代わり、事故直後に意識障害が生じる・3か月ほどすると千切れた脳神経が消え、「脳室」と呼ばれる脳内部の空洞が拡大すると言った特徴があります。
脳室の大きさは個人差がありますので、時間が経ってから画像検査をして脳室が大きい!と主張しても、事故直後と比べられなければ意味がありません。
事故直後から継続的・定期的に行った精密画像検査結果で脳室拡大を証明する必要があります。
(2) 症状の内容・程度や変化
症状を証明する客観的な資料としては、まず、知能検査があるでしょう。
高次脳機能の低下、すなわち、認知能力障害(記憶や判断力の低下)、行動能力障害(計画性のない行動、段取りの悪さ)、人格変化(幼稚な性格になってしまう)などのうち、記憶力や行動能力などは、それぞれの能力に応じた知能検査を継続的に受けることで、ある程度は客観的に証明できます。
もっとも、知能テストだけでは不十分です。
高次脳機能障害の「症状」は、高次脳機能の低下そのものというより、それにより生じる被害者様の生活における様々な支障の方と言った方が正しいからです。
しかし、「生活上の支障」は、介護が常に必要というケースはともかく、働くことはできるが思うようにいかなくなった、というよくあるケースでは、なかなかうまく説明できないものです。
特に医師は、専門家ではありますが、被害者様個人の事故前の性格や生活の状況を事細かに知っているわけではありませんし、診察の時間も短いですから、症状を具体的に把握しにくいことが大問題になります。
事故以前の被害者様の性格や生活の状況をよく知るご家族など周囲の方々が、医師に被害者様の事故前後の変化、生活の中での具体的な支障をわかりやすく説明する必要があるのです。
必要書類の中には、ご家族などが作成する「日常生活状況報告」という書類もあります。
別紙で詳細な文章を付け加えることもできます。医師に後遺障害診断書や神経系統の障害に関する医学的意見などを作成してもらう前に、日常生活状況報告そのものでなくとも、その下書きとして事故から治療終了までの被害者様の状況をまとめたメモを渡して説明するなどして、被害者様の症状について医師に十分理解してもらうよう、力を尽くしてください。
[参考記事]
日常生活状況報告書の準備|書き方や後遺障害認定のポイント
4.交通事故に遭ってしまったら早めに弁護士へ相談を
交通事故による高次脳機能障害は、被害者様の今後に大きな問題を与えかねない重大な後遺障害です。
後遺障害の損害賠償金は高額になりやすい一方、認定を受けられなければ原則として全く請求できません。
認定を受けたとしても、本来認定されるべき等級よりも低い等級となってしまうと、大きく金額が下がってしまうことになります。
複雑な認定システム、はっきりとしない等級の基準。それでも、少しでも多い損害賠償金を手に入れる可能性を高くするためには、法律の専門家である弁護士に依頼して、被害者様の症状や証拠の内容に応じた適切な対応を任せるべきです。
泉総合法律事務所は、これまで多数の交通事故の被害者の方をお手伝いしてまいりました。
関東に張り巡らした支店ネットワークと、経験豊富な弁護士が、被害者の皆様をサポートいたします。
高次脳機能障害に苦しむ皆様のご来訪をお待ちしております。
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