歩行者と自動車の交通事故が発生した場合、過失割合はどうなる?
歩いていて自動車に轢かれてしまった、また、車を運転していて歩いている人に当たってしまったなどという、歩行者対自動車の交通事故。歩行者が巻き込まれる事故には、時には死亡という結果や大きな後遺障害の発生を伴うなど、被害が非常に大きくなることがあるという特徴があります。
過失割合の差は、最終的な賠償金の額に大きな影響を与えますので、正当な過失割合を認めてもらうことはとても大切なのですが、被害が大きい事故の場合は、よりその影響は顕著になります。
歩行者との事故の場合、いつも自動車が100%悪いことになるのでしょうか?歩行者が信号無視をしているのに、歩行者の過失が0%と評価されることもあるのでしょうか?
今回は、歩行者と自動車の交通事故の過失割合に関する様々な疑問をお持ちの方に向けて、歩行者と自動車の過失割合について解説していきます。
このコラムの目次
1.過失割合とは
「過失割合」とは、交通事故が起きたことについての当事者の責任の割合を比率で表したものです。10%:90%などというかたちで表現されることが多いです。
交通事故の損害賠償を請求する際には、この過失割合に応じて、賠償金の額が減額されることになります。このような処理のことを、「過失相殺」といいます。
過失割合を最終的に決めるのは裁判官ですが、目安も存在します。それが、過去の裁判例です。
法律実務においては、一般的に、交通事故の態様ごとに、過去の裁判例をまとめて、基本となる過失割合や基本の割合を修正すべき要素を挙げる『民事交通訴訟における過失相殺等の認定基準』(判例タイムズ社出版)という書籍が参考にされています。
この記事でも、この書籍に挙げられている過失割合を参考にして説明していきます。
2.歩行者対自動車事故の過失割合の基本的な考え方
歩行者は自動車と比較して圧倒的に弱い立場にあること、自動車の方が危険性もずっと高いことなどから、基本的に、歩行者が被害者となる交通事故では、自動車の過失が大きくみられることになっています。
歩行者は、横断歩道がある場所の近くで道路を横断しようとする場合には、横断歩道を渡らなければなりません。また、交通整理の行われている場所では、信号機に従って横断しなければなりません。
歩行者がこのようなルールを守っていた場合には、歩行者の過失割合は0か、あるとしても非常に小さいものと判断されます。
一方、自動車の過失が大きくみられるとはいっても、歩行者がルールを守っていなかった場合には、歩行者にもある程度の過失割合が認められることもあります。
このように、歩行者が道路を横断しているときに起きた交通事故については、事故が起きた場所が横断歩道上なのかどうか、また、信号機が設置されている道路上なのかどうかによって分けて整理されています。
3.具体的な過失割合
それでは、具体的なケースにおいて過失割合がどのように考えられているのかを説明します。
なお、歩行者と車の交通事故で最も多いのは、歩行者が道路を横断する場合に起きるものですので、ここではこの場合を中心に説明していきます。
もっとも、実際には、さらに多くの事故類型がありますので、ご自分のケースでどうなるのかは、弁護士に相談して確認して頂ければと思います。
(1) 横断歩道上の事故
①信号機がある場合
まず、信号機のある横断歩道を渡っている歩行者と、直進してきた自動車との事故の場合の過失割合をみていきます。
歩行者が青信号で横断を開始した場合(自動車の信号は赤色)
歩行者の信号が青色の場合、基本的に、歩行者の過失割合は、0%です。歩行者がルールを守っている一方、車には信号無視という重い義務違反があるからです。
なお、渡り始めたときの信号の色が青色であれば、衝突したときに黄色になっていても、この類型にあたるとされています。
ただし、黄色の間に横断しきれず、途中で赤色に変わってしまっていた場合には、別の類型となります。
歩行者が黄色信号で横断を開始した場合(自動車の信号は赤色)
この場合の基本の過失割合は、歩行者:自動車=10%:90%です。
歩行者は、黄色信号で横断歩道を渡り始めてはいけませんので、歩行者にも過失が認められます。しかし、赤信号で侵入した自動車の過失の方がずっと大きいので、歩行者の過失は10%にとどまります。
この基本の過失割合を修正する要素は、次のとおりです。
まず、歩行者が、児童(6歳以上13歳未満)・高齢者(65歳以上)・幼児(6歳未満)・身体障碍者などの場合は、歩行者の過失が5%減らされます。歩行者がこのような人の場合には、保護されるべき程度がより大きいと考えられているからです。
また、歩行者が集団登下校などで集団横断していた場合には、自動車は歩行者を通常より発見しやすいはずなので、歩行者の過失が5%減らされます。
さらに、車に著しい過失や重過失がある場合にも、歩行者の過失が5%減らされます。
ここでいう「著しい過失」の例としては、わき見運転などの著しい前方不注視、携帯電話を使いながらの運転などが挙げられます。「重過失」とは、著しい過失よりもさらに重い、故意に近いような過失です。酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転などがその例です。
歩行者が赤色信号で横断を開始した場合
自動車が赤色で侵入した場合
歩行者が信号無視をしている場合、歩行者の過失割合も大きくなってきますが、自動車も赤信号で侵入した場合には、自動車の過失が非常に大きいので、歩行者の過失は20%(歩行者:自動車=20%:80%)とされています。
夜間であったり、幹線道路であったりする場合には、歩行者に5%の過失が加算されて、歩行者:自動車=25%:75%となります。
夜間などの暗い環境では、歩行者がライトを点灯した車を発見するのは難しくありません。一方、暗い中で車の方が歩行者を発見するのは難しい場合も多いです。そのため、事故の発生が夜間の場合には、歩行者の過失が増やされるのです。
また、歩行者が車の直前・直後で横断したり、ななめ横断をしたり、突然立ち止まったり後退するなどした場合にも、歩行者に5%の過失が加算されます。
一方、事故が起きた場所が住宅街や商店街である場合には、自動車が歩行者に対して特に注意することが要請されますので、歩行者の過失が5%減算されます。
また、歩行者が児童や高齢者であった場合には、5%が、歩行者が幼児や身体障碍者であった場合には、10%が、歩行者の過失割合から減らされます。
集団で横断していた場合は、歩行者の過失が5%減らされます。
自動車に著しい過失がある場合には、10%が、自動車に重過失がある場合には、20%が歩行者の過失割合から減算されます。
自動車が黄色で侵入した場合
歩行者が、自分の側の信号が赤色であるにもかかわらず、自動車側の信号が黄色になったことから「もう車は来ないだろう」と思い込んで渡ってしまったというようなケースです。
この場合の基本の過失割合は、歩行者:自動車=50%:50%とされています。
自動車が青色で侵入した場合
自動車は、自分がルールを守って青色で侵入している場合、信号無視をして渡ってくる歩行者がいることまで予見しなければならないというわけではありません。ですから、自動車が青信号で侵入したケースでは、自動車の過失割合は小さくなります。
具体的には、歩行者:自動車=70%:30%が、基本の過失割合とされています。
このケースでは、基本の過失割合の時点で歩行者の過失割合が大きいので、これ以上歩行者の過失割合を加算する方向で修正することは通常ありません。歩行者の過失を減算する修正要素は、これまでの場合と同じです。
減算の割合は、自動車が黄色で侵入した場合と同じです。
②信号機がない場合
横断歩道に接近する車には、次のようなルールが課せられています。
すなわち、横断歩道に接近する車は、横断歩道を通過する際に、横断歩道によって道路を横断しようとする歩行者がいないことが明らかな場合を除いて、その横断歩道の直前で停止できるような速度で走らなければなりません。
また、横断歩道を横断している人や横断しようとしている人がいる場合には、横断歩道の直前で停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければなりません。
このように、横断歩道を通過する自動車には、重い注意義務が課されているのです。
その反面、歩行者は、横断歩道では絶対的な保護を受けるといえます。横断歩道は、「歩行者の聖域」と呼ばれることもあります。
ですから、信号機がない横断歩道上の事故については、原則として、歩行者に過失があると判断するべきではないというのが、基本的な考え方です。
もっとも、歩行者が左右を確認すれば簡単に事故を避けられたといえるケースなどでは、歩行者にも過失が認められる場合があります。
(2) 横断歩道ではない場所での交通事故
歩行者は、横断歩道が近くにある場合には、横断歩道を渡らなければなりません。
このようなルールに反して、横断歩道ではない道路を渡って事故が起きた場合には、歩行者にもある程度の過失が認められます。
以下、具体的なケースでどのような割合が基本とされているのか、挙げていきます。
①信号機のある横断歩道付近での事故
横断歩道通過後の自動車と歩行者の事故
この場合の基本の過失割合は、以下のとおりとなっています。
- 歩行者青信号で横断、自動車赤信号で進入の場合
→歩行者:自動車=5%:95% - 歩行者黄信号で横断、自動車赤信号で進入
→歩行者:自動車=15%:85% - 歩行者赤信号で横断、自動車赤信号で進入
→歩行者:自動車=25%:75% - 歩行者赤信号で横断、自動車黄信号で進入
→歩行者:自動車=50%:50% - 歩行者赤信号で横断、自動車青信号で進入
→歩行者:自動車=70%:30%
修正要素は、これまでに説明してきたものと同じです。
信号機のある横断歩道手前での交通事故
この場合の基本の過失割合は、以下のとおりとなっています。
- 歩行者青信号で横断、自動車赤信号で進入
→歩行者:自動車=10%:90% - 歩行者黄信号で横断、自動車赤信号で進入
→歩行者:自動車=20%:80% - 歩行者赤信号で横断、自動車赤信号で進入
→歩行者:自動車=30%:70% - 歩行者赤信号で横断、自動車黄信号で進入
→歩行者:自動車=50%:50% - 歩行者赤信号で横断、自動車青信号で進入
→歩行者:自動車=70%:30%
修正要素は、これまでに説明してきたものと同じです。
②信号機のない横断歩道付近における事故
基本の過失割合は、歩行者:自動車=30%:70%です。修正要素は、これまでのものと同様ですが、「横断禁止の規制がある」という事情も加わります。
横断歩道の規制がある場所で横断した場合には、歩行者に10%の過失が加算されます。
③横断歩道のない交差点またはその直近における事故
幹線道路や幅の広い道路の場合
直進してきた車と衝突した場合の基本の過失割合は、歩行者:自動車=20%:80%です。
右左折してきた車と衝突した場合の基本の過失割合は、歩行者:自動車=10%:90%です。
幹線道路や広い道路の場合、歩行者は、通常よりもより左右を確認すべき重い注意義務があると考えられています。そのため、歩行者の過失が少し大きくなります。
狭い道路の場合
一方、狭い道路の場合の基本の過失割合は、歩行者:自動車=10%:90%です。
④横断歩道の付近ではない道路での事故
この場合の基本の過失割合は、歩行者:自動車=20%:80%です。
修正要素は、これまでと同じように考えます。
4.過失割合に納得がいかない場合
(1) 保険会社の提示は絶対ではない
交通事故の後、怪我の治療が終わると、通常のケースでは、相手方の保険会社から示談金の提示があります。その中では、保険会社が主張する過失割合によって過失相殺がされています。
この保険会社が提示する過失割合に納得がいかない場合、どうしたらよいのでしょうか。
そもそも、最初に説明したように、過失割合を最終的に決めるのは裁判官であって、保険会社ではありません。
ですから、自分の主張がある場合には、安易に示談に応じてしまうのではなく、きちんと主張・立証を重ねて交渉しましょう。
交渉によっても合意に至ることができない場合には、訴訟を提起して、裁判官の判断をあおぐことになります。
(2) 何を主張すればよいのか
過失割合に争いが出てくるケースの中には、事故態様自体に争いがある場合と、評価の仕方に争いがある場合があります。
信号の色や現場の状況などといった事故態様自体に争いがある場合には、まず、実況見分調書や目撃証言など、様々な資料を証拠として、事故態様を立証する必要があります。
また、事故態様には争いがなくても、何らかの事情で先ほど挙げた判例タイムズなどの書籍の過失割合をそのまま適用すべきではないといった主張があることもあります。また、そもそも、書籍に掲載されていない事故類型であり、どのような過失割合とするのかという点に争いが生じる場合もあります。
そのような場合には、過去の裁判例を改めて検索し、自分に有利な判断がされた例を探し出すなどといった作業が必要となります。
5.過失割合についての悩みは弁護士に相談
このように、過失割合に争いが生じた場合、自分の主張を相手方に認めさせたり、裁判官に認めてもらったりするためには、適切な主張・立証を行わなければなりません。
しかし、そのためには、十分な専門的知識と経験が不可欠となりますので、専門家である弁護士に相談するのが得策です。
弁護士に相談・依頼することで、過失割合が有利になれば、得られる賠償金の金額は大きく増額することになりますので、まずは一度、弁護士に相談することをおすすめします。
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