交通事故による骨折で認められる可能性がある後遺障害等級と慰謝料
交通事故で骨折などのけがをしてしまった場合、まずはできるだけ症状が改善されるように必要な治療を続けることが大切です。
しかし、それでも、痛みや可動域制限など様々な後遺症が残ってしまうこともあります。
残念ながら後遺症が残ってしまった場合には、きちんと後遺障害等級認定を獲得して、慰謝料を得られるようにしたいです。
この記事では、交通事故による骨折で残ってしまいがちな後遺症について、治療の受け方や示談交渉の方法などに触れながら、解説していきます。
このコラムの目次
1.交通事故でよくある骨折の種類
交通事故で骨折をしてしまうということはよくあります。
以下では、交通事故による骨折で特に多いものを挙げます。
- 胸腰椎の圧迫骨折
自転車・単車を運転中に交通事故にあって、路面にお尻からドスンと転落したり、横転したり、一回転したりしたケースに多く発生する骨折です。 - 鎖骨骨折
交通事故による骨折で一番多いと言われている鎖骨の骨折です。 - 上腕骨骨幹部骨折
骨の中央の骨折です。 - 上腕骨遠位端骨折
バイクで転倒した場合によく発生する部位の骨折です。 - 橈骨頭・頸部骨折
腕をまっすぐ伸ばした自動二輪車を運転中の事故で発生することが多い骨折です。多くの場合、上腕骨内上顆骨折、尺骨近位端骨折、尺側側副靱帯損傷を併発します。 - 舟状骨骨折
肘関節を伸ばした状態で転倒し、手のひらをついたときに生じることの多い骨折です。 - 股関節脱臼・骨折
車に乗車中、ひざがダッシュボードに打ち付けられて発症することが多い骨折です。 - 大腿骨頸部骨折・内側骨折、外側骨折
65歳以上の人に生じることが多いといわれています。 - 大腿骨骨幹部骨折
バイクの運転中に大腿部に車の衝撃を受けたり、転倒時に地面に打ったりして生じる骨折です。 - 大腿骨顆部骨折
車のバンパーやダッシュボードに大腿骨遠位部を打ち付けることで発症することが多いと言われています。 - 脛骨顆部骨折
膝に衝撃が加わったときに多く発症する骨折です。膝の靱帯損傷や脱臼、膝蓋骨骨折を併発することがあります。 - 脛骨・腓骨骨幹部骨折
交通事故による下腿骨骨折中では、最も多発すると言われています。 - リスフラン関節脱臼骨折
バイクを運転中の事故において多く発生します。
2.骨折によって残り得る後遺症
交通事故で骨折をした場合に残ってしまうことのある後遺症には、様々なものがあります。主なものを次に挙げます。
- 変形障害(せき柱変形、偽関節など)
- 神経症状(痛みやしびれなど)
- 運動障害(可動域制限)
- 短縮障害
以下、それぞれについて、少し詳しくみていきます。
(1) 変形障害
①せき柱の変形障害
せき椎圧迫骨折などを負った後、せき柱に変形を残ってしまう後遺障害のことです。
自賠責保険制度においては、「せき柱に著しい変形を残すもの」(6級5号)、「せき柱に中程度の変形を残すもの(8級に準ずる障害)」、「せき柱に変形を残すもの」(11級7号)の、3段階で認定することとされています。
せき柱の変形障害が認定されるためには、まず、レントゲン写真、CT画像、MRI画像などによって、せき椎圧迫骨折などをしたことが確認されることが必要です。
せき椎の圧迫骨折は、特に比較的軽微な場合などには、医師に見逃されてしまうことも少なくありません。レントゲンでは発見されないものでも、MRI検査によって確認されるということもありますので、きちんとMRI検査を受けることが大切です。
また、交通事故から時間が経ってからの検査結果しかない場合には、交通事故との因果関係が疑われてしまうことがありますので、できるだけ早めに検査を受けるように注意しましょう。
もし、医師が骨折の診断をしてくれない場合でも、痛みなどの症状が改善しないのであれば、別の病院を受診してみましょう。別の病院で、適正な診断を受けることができるケースもあります。
②偽関節
偽関節とは、骨折した部分がうまくくっつかずに、関節のように動いてしまう状態になってしまうことをいいます。
自賠責保険における後遺障害等級では、「1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」(第7級9号)、「1上肢に偽関節を残すもの」(第8級8号)、「1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」(第7級10号)、「1下肢に偽関節を残すもの」(第8級9号)に該当します。
骨がうまくくっついていない状態(「ゆ合不全」)が残っていることが確認されることで、後遺障害等級認定されます。
「偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」と認定されるためには、常に硬性補装具を必要とする状態である必要があります。
(2) 神経症状
骨折の治療が終わっても疼痛が残ってしまった場合には、神経症状の後遺障害等級が認定されることがあります。認定され得る後遺障害等級は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)、「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)です。
12級13号に認定されるためには、ゆ合不全や変形ゆ合などの他覚的所見が存在することが必要です。
明確な画像などの他覚的所見がなくても14級9号に認定される可能性はあります。その場合には、事故後から症状が一貫していることなどから、症状を医学的に説明できる必要があります。骨折の場合、骨折をしていたこと自体は画像上明らかになることがほとんどなので、むち打ち症などと比較すると、説明がつきやすいことも多いようです。
いずれにしても、骨折の治療を受ける際には、自分が感じている症状を細かく毎回丁寧に医師に伝えておくことが大切です。
(3) 運動障害(可動域制限)
骨折がうまく治らないことによって、関節がこれまで通りに曲がらなくなってしまう後遺障害を、可動域制限といいます。
可動域制限で後遺障害等級が認定されるためには、画像診断の結果などによって、医学的な原因があることが明らかになる必要があります。
また、どの程度の可動域制限があるかの測定が必要です。
この測定について、よく聞く失敗は、それまで治療をしてくれた医師に対する感謝の気持ちなどから、治療のおかげで動くようになったということを見せようという思いになって、ついつい無理をして動かしてしまうということです。
動かない範囲が狭く計測されてしまうと、適正な後遺障害等級の認定を得られないことになってしまうかもしれませんので、決して無理して動かすなどということはしないように注意してください。
(4) 短縮障害
短縮障害とは、骨折が原因で、片方の足などが、骨折していない方よりも短くなってしまう後遺障害のことをいいます。
認定され得る後遺障害等級は、以下のとおりです。
- 8級5号 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの
- 10級8号 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
- 13級8号 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの
3.骨折の慰謝料相場
(1) 入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、入院や通院をしたことによる精神的苦痛に対する慰謝料です。骨折の場合、6ヶ月以上通院することも多いです。
骨折で6カ月通院した場合の慰謝料は、弁護士基準によると、116万円です。
通院慰謝料は、基本的には、通院期間が長くなるほど高くなっていきますので、治療の必要性がある限り長く通院するようにしましょう。
また、治療期間が長いにもかかわらず、実際に通院した回数が少ないと、治療期間をそのまま採用してもらえない場合もありますので、できるだけ定期的に通院するように注意する必要があります。
(2) 後遺障害慰謝料
弁護士基準による後遺障害慰謝料の基準は、次のとおり、等級ごとに決められています。等級が上がるほど、慰謝料金額は大きくなります。
第1級 |
第2級 |
第3級 |
第4級 |
---|---|---|---|
2800万円 |
2370万円 |
1990万円 |
1670万円 |
第5級 |
第6級 |
第7級 |
第8級 |
1400万円 |
1180万円 |
1000万円 |
830万円 |
第9級 |
第10級 |
第11級 |
第12級 |
690万円 |
550万円 |
420万円 |
290万円 |
第13級 |
第14級 |
|
|
180万円 |
110万円 |
|
4.骨折の示談交渉
骨折の場合、むち打ち症などと比較すると、治療期間も長くなりがちですし、後遺症が残ってしまうことも多くなります。
そのため、全体の損害賠償金額も大きくなることがありますので、相手方の保険会社は、治療を早めに打ち切るように言ってくることもあります。
また、任意保険会社は、弁護士基準ではなく、それよりかなり低い独自の基準(「任意保険基準」などと呼ばれます。)によって慰謝料金額を計算します。
そのため、保険会社の言いなりになっていると、適切な対処ができれば得られるはずの賠償金よりもずっと低額の賠償金しか得られないという結果になることもあるのです。
ですから、保険会社に言われるがまま治療を中止したり、示談に応じてしまったりするのではなく、きちんと示談交渉を行うことが大切です。
また、後遺障害等級認定の申請についても、保険会社任せにせずに「被害者請求」というかたちで被害者が自分で行うということも考えられますし、仮に一度納得のいかない認定結果(非該当とする結果)が出たとしても、異議申立を行うということも考えられます。
適切な後遺障害等級認定を獲得した上で、示談交渉を進めましょう。
5.骨折の後遺障害認定や慰謝料請求は弁護士に相談を
このように、交通事故で骨折をした場合の示談交渉は大切ですが、自分1人で行うよりも、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士であれば、そもそも、任意保険基準よりずっと高額な基準である弁護士基準で慰謝料を請求しますし、適切な後遺障害等級認定を獲得するためのサポートもしてくれます。
また、専門的な知識をもって、示談交渉を進めてもらうことができますので、有利な結果を得られる可能性が高くなります。
弁護士に依頼して示談交渉を行う場合と、示談交渉を行わない場合とでは、得られる賠償金が大きく違ってくることもよくありますので、交通事故で骨折をした場合には、一度弁護士に相談してみましょう。
交通事故のお悩みは、泉総合法律事務所の弁護士に是非ご相談ください。
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