自己破産で交通事故の損害賠償金の支払義務は免責される?
自己破産手続は、裁判所を通じて行う債務整理方法の一つです。
手続に成功すると、原則として借金の返済義務などの金銭支払義務、つまり「債務」が全額免除されます。
もっとも、自己破産をしても免除されないことになっている債務もあります。たとえば、滞納している税金や年金などは、免責されない債務の代表例です。
また、交通事故の損害賠償金は、事故に関する事情によって、自己破産でその支払いを免れることができるのかどうかが異なります
ここでは、自己破産手続における交通事故の損害賠償金の扱いについて説明します。
このコラムの目次
1.自己破産の基本
自己破産手続は、支払不能となった債務者が、裁判所を利用して、自らが持つほとんどの財産を債権者へ配当することを代償に、借金などの債務を免除してもらう債務整理手続です。
しかし、99万円以下の現金や、生活必需品は手元に残すことができます。
自己破産により債務が免除されることを「免責」と言い、裁判所が免責を決定することを「免責許可決定」と言います。
しかし、すべての債務が免責されるわけではありません。
先述の通り、税金などの公租公課の他に、交通事故の損害賠償金の中でも、免責の対象とならないものがあります。
2.交通事故の損害賠償金の内容
交通事故の加害者となってしまうと、相手に怪我をさせてしまった場合の治療費や入院費用、入通院や後遺障害に対する慰謝料、また、相手の自動車などの財産を壊してしまった場合の修理費用や代車費用などの損害を賠償する責任が生じます。
つまり、上記の損害について、被害者は、加害者に対して法律上の言葉で言うところの「不法行為に基づく損害賠償請求権」、つまり、損害賠償金を支払うことを要求する権利を持つことになります。
この損害賠償金の支払義務が、自己破産手続により免責されるかどうかは、以下の「非免責債権」に該当するかどうかで決まります。
3.非免責債権の種類
交通事故の損害賠償金が含まれる不法行為に基づく損害賠償請求権の中には、「非免責債権」といって、支払負担の金額については一切免責されないものがあります。
それは、以下のような損害賠償請求権です。
(1) 悪意で害を加えた場合の損害賠償請求権
「悪意」とは、積極的に相手に害を加える意思のことです。暴行傷害などの犯罪による損害賠償請求権が典型です。
また、損害の内容については、限定がされていません。
生命や身体に限らず、財産などへの損害も、非免責債権とされます。たとえば、詐欺や横領による損害は免責されないわけです。
(2) 故意または重過失により人の生命又は身体を害した場合の損害賠償請求権
「故意」とは、自分の行動の結果、損害が生じると分かっていたことを意味し、「重過失」とは、損害を回避するためにすべき注意をほとんど払っていなかったことを意味します。
故意や重過失による損害であっても、生命や身体以外の損害、たとえば財産などへの損害についての賠償請求権は含まれません。
一方、重過失とまではいえない通常の過失、不注意により生じた生命または身体を害した場合の損害賠償請求権は、(1)に含まれませんので、自己破産により免責されます。
改めて、(1)と(2)について簡単にまとめると、次のようになります。
- 積極的に相手に害を加えた場合の損害賠償請求権は、どのような損害賠償金についても免責されることはない
- 故意または重過失で相手を死なせてしまった、または怪我をさせてしまった場合の、遺族への慰謝料や被害者の治療費などへの損害賠償金は免責されることはない
- 故意または重過失による損害でも、生命や身体以外に生じた損害に関する賠償金は免責される
- 単なる過失による損害賠償金は、どんなものでも免責される
なお、これら以外の非免責債権については、以下のコラムで解説しています。
[参考記事]
税金、罰金、養育費など、自己破産しても無くならない借金とは?
では、交通事故の損害賠償金がどのような場合に免責されるのか、具体的に見ていきましょう。
(3) 交通事故における非免責債権
交通事故の中でも悪質性の高いもの、たとえば、飲酒運転や暴走運転により、人身事故を起こしてしまった場合は、「故意または重過失により人の生命または身体を害した場合」に該当しますので、損害賠償金は免責されません。
一方、悪質な交通事故による損害であっても、悪意があるとまでは言えなければ、自動車の修理費用や積み荷など、生命身体以外の損害である財産などの損害については、免責をしてもらえます。
脇見運転や、軽度なスピード違反等、単なる過失により生じた損害賠償金は、自己破産手続による免責の対象です。
人身事故・物損事故、いずれも支払責任を免れることができます。
自己破産手続では、債務者に免責許可決定をすべきかどうかは判断されますが、問題となっている債務が非免責債権に当たるか否かは判断されません。
人身事故の場合に、債権者である交通事故の被害者や、被害者に保険金を支払った保険会社が、「軽過失ではなく重過失による交通事故で被害者がけがを負ったのだから、その損害賠償金は非免責債権ではない」として裁判を起こすことは、自己破産手続の前はもちろん、後でも可能です。その裁判の判決により、軽過失か重過失か、つまり、交通事故の損害賠償金が非免責債権に当たるかどうかが初めて決着します。
軽過失か重過失かの分かれ目は、交通事故でも非常に争いになりやすい、専門的な問題です。弁護士でなければ、ほとんど対応はできないでしょう。
4.自己破産での交通事故の損害賠償金の扱いは弁護士に相談を
交通事故を起こしてしまい、多額の損害賠償金を負ってしまうことは、自動車を運転する方には誰にでも起こり得ます。
保険にしっかり加入していれば、かりに交通事故を起こしてしまい被害者に損害賠償をしなければならなくなったとしても、通常は保険で対応が可能でしょう。
しかし、もし任意保険に加入していないまま、重大な事故を起こしてしまった場合などには、他の借金の整理と併せて自己破産の検討も視野に入れなければならないかもしれません。
最後に説明した通り、過失の重さ次第で、免責を受けられる範囲が大きく異なる可能性があります。
従って、裁判所がどのような判断をするかを予測し、適切な段取りを立ててサポートできる弁護士に相談することが大切です。
泉総合法律事務所では、自己破産手続の経験が豊富な弁護士が多数在籍しております。金銭的にお困りの皆様、自己破産をお考えの方のご相談を心よりお待ちしております。
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