住宅資金特別条項を利用できない場合に検討するべきこと
個人再生手続は、支払不能な借金を減額したうえで、原則3年(最長5年)で返済するようにして、借金の返済負担を軽減する債務整理手続です。債務者が作成した再生計画案について、裁判所が履行可能であると認可したのち、再生計画に基づく返済を終えれば、残る借金が免除されます。
個人再生手続の最大の特徴は、住宅ローン残高の残るマイホームを維持しつつ、他の借金を整理することができる住宅資金特別条項にあります。
しかし、住宅資金特別条項を利用した個人再生手続を、どのような場合でも利用できる訳ではありません。
ここでは、住宅ローンがあるにもかかわらず、様々な事情により、住宅資金特別条項を用いずに、マイホームを手放してでも個人再生手続をする場合について説明します。
このコラムの目次
1.住宅資金特別条項について
個人再生手続では、債務者の財産が裁判所により処分されることはありませんが、住宅ローンのための抵当権がついているマイホームなど、担保の付いている財産については、住宅ローン債権者等、担保権を持っている債権者が処分できることが原則です。
例外的に、マイホームだけは、住宅資金特別条項(「住宅ローン特則」とも呼ばれます。)を再生計画に盛り込むことで処分を回避することができるようになっています。
しかし、住宅資金特別条項には利用条件があります。
また、そもそも個人再生手続自体を成功させられなければ、住宅資金特別条項を用いる意味がありません。
2.住宅資金特別条項を利用できない場合
(1)利用条件を満たせない場合
①住宅ローンの中にマイホームと関連しない借金が混ざってしまっている場合
住宅資金特別条項を用いるには、対象となっている借金が、マイホームに関連していることが必要です。
不動産登記費用などは問題ないのですが、教育費や生活費などを住宅ローンに組み込んで借り入れてしまっていると、住宅資金特別条項を用いることはできません。
②債務者の生活のために処分されないようにする必要性が強いとは言えない場合
住宅資金特別条項を用いるには、対象となっている住居が債務者の生活の主要な場となっていることが必要です。投資用不動産、別荘や、セカンドハウスは対象となりません。
また、自営業の方の店舗兼マイホームや、二世帯住宅では、債務者自身の生活のために用いられている部分が、床面積の2分の1未満であると、生活の主要な場とは言えなくなります。
③マイホームに債務者が負担する住宅ローン以外の借金についての担保権がある場合
住宅資金特別条項を用いるには、対象となっているマイホームに、住宅資金特別条項により権利行使を制限される住宅ローン債権者の抵当権以外の担保権が付いていないことが必要です。
債務者自身が住宅ローンとは関係ない借金についてもマイホームに抵当権を設定している場合、住宅資金条項を用いることができません。
④保証会社の代位弁済から手続の申立の間に6か月以上経過してしまっている場合
代位弁済とは、住宅ローンに関していえば、住宅ローンの債務者が住宅ローンを一定期間支払えなくなった場合に、債務者に代わって住宅ローン残高を住宅ローン債権者に一括返済することです。
代位弁済がされると、住宅ローンは返済されてしまいますから、消滅します。
その代わり、保証会社は債務者に対して、肩代わりした住宅ローン残高相当額を請求できるようになります。この請求権は求償権と呼ばれます。
また、マイホームについていた抵当権も、保証会社に移転してしまいます。
代位弁済から6か月以内であれば、住宅資金特別条項を利用することで、代位弁済がされる前の状態に戻す、巻き戻しという制度を利用できます。
しかし、権利関係を強引に元に戻すと、関係者に不利益が生じる恐れがあるため、巻き戻しをして住宅資金特別条項を利用できる期間は、代位弁済から6か月以内に申立てをした場合に限られているのです。
(2)再生計画に基づく返済ができない場合
住宅資金特別条項を利用してマイホームを維持するには、個人再生手続そのものも成功させなければなりません。
しかし、住宅資金特別条項を用いた場合、住宅ローンは一切減額されません。
基本的に、再生計画に基づく返済と、受託ローンの従来通りの返済が、再生計画期間中は併存し、返済負担が重くなります。
また、住宅ローンがマイホームの価値より低い、いわゆるアンダーローンという場合には、再生計画上の返済額が増加してしまう恐れがあります。
個人再生手続では、清算価値保障の原則と言って、仮に自己破産手続をしたとすれば債権者に配当されると見込まれる債務者の財産相当額である、清算価値と呼ばれる金額を、最低限、再生計画で返済しなければなりません。
アンダーローンの場合に自己破産手続をしたとすれば、マイホームの処分価格から、住宅ローン債権者などが回収したのちの残額が、配当に回されてしまいますから、マイホームの価格から住宅ローン残高をひいた金額が、清算価値に含まれてしまうのです。
個人再生手続を成功させるには、裁判所に再生計画が履行可能であると認めてもらったうえで、実際に再生計画上の返済を完済する必要がありますが、住宅資金特別条項を用いた場合には、それが難しくなるのです。
住宅資金特別条項が利用できず、マイホームをあきらめるならば、借金が完全に免除される自己破産手続がベストのように思えます。
しかし、自己破産手続には、個人再生手続にはないデメリットがあるのです。
3.個人再生手続を選択する理由
(1)裁判所による財産の処分がない
自己破産手続では、一定額以上の財産があれば、裁判所により処分されてしまいます。
特に年配の方では、生命保険の解約返戻金や退職金が非常に高額になっていることもあるでしょう。
また、若い方でも、子どもがいるため学資保険で教育費を積み立てている場合、その解約返戻金を没収されることは、子どもの教育上、大きな損失になります。
個人再生手続では、裁判所による財産の処分はありませんから、上記の財産を維持することができます。
(2)資格制限がない
自己破産手続では、手続中、他人の財産を取り扱う資格や職業が制限されてしまいます。たとえば、警備員や保険外交員などです。
資格制限の回避策としては、手続中の休職や転属などがありますが、回避策が取れない場合は、資格制限のない個人再生手続をすることで、根本的な解決を図ることができます。
では、これから、住宅資金特別条項を用いずに住宅ローンを含む借金を個人再生手続で債務整理する際の注意点を、主な問題点ごとに説明します。
4.5,000万円要件との関係
個人再生手続を始めるには、借金の総額が5,000万円以下である必要があります。
また、再生計画の認可の際にも、再度、5,000万円以下でないかどうかが確認されます。
手続開始時点の判断においては、住宅ローン債権者が抵当権による処分をしておらず、また、保証会社の代位弁済もされていない場合には、住宅ローン残高の全額が借金総額から引かれたうえで、5,000万円を超えるかどうかが判断されます。
もっとも、ほとんどの場合は、申立ての前に保証会社が代位弁済をしていることでしょう。
その場合は、住宅ローン残高相当額から、マイホーム評価額もしくは処分代金を差し引いたうえで、他の借金と合計して5,000万円要件を判断することになります。
5.再生計画の履行可能性
(1)最低弁済額
先ほど、住宅資金特別条項を利用できない事情の説明の中で触れた、清算価値以外に、再生計画上の返済総額の基準となっているものが、最低弁済額です。
最低弁済額は、法律上、借金総額に応じて定められています。
住宅ローンは、住宅資金特別条項を用いる場合は最低弁済額の基準に含まれません。
一方、用いない場合には、マイホームの処分代金をひいてなお残った住宅ローン相当額が含まれることになります。
最低弁済額は、基本的には、借金総額に比例して高額になっていきます。
もっとも、住宅資金特別条項を用いた場合には、住宅ローンは一切減額されませんが、用いなければ、他の借金同様に減額されますし、最低弁済額は借金総額が高額になるほど、減額率が高くなりますから、さほど不安になる必要はないでしょう。
(2)清算価値などについて
住宅資金特別条項を用いなかったためにマイホームが債権者により処分されてしまったものの、アンダーローンであるために残金が生じた場合には、債務者に返還されますから、当然、そのお金は清算価値に計上されてしまいます。
とはいえ、ほとんどの場合は、住宅資金特別条項を用いて再生計画と住宅ローンの二重払いをするときより負担が軽くなるでしょう。
6.債権者による再生計画案への書面決議
一般的に用いられる種類の個人再生手続では、債務者が作成した再生計画案について、債権者が書面で決議を行います。
債権者のうち頭数の過半数か、あるいは、借金総額の過半数の債権を持つ債権者たちが反対した場合には、手続は打ち切られてしまいます。
住宅資金特別条項を利用した場合は、住宅ローン債権者や保証会社は再生計画案への議決権を持ちませんが、利用しない場合には、マイホームの処分代金を差し引いた残額について、議決権を持ちます。
しかし、実務上ほとんどの場合は、住宅ローン債権者や保証会社の反対による手続の打ち切りとなってしまうことはありません。
抵当権に基づいてマイホームを処分した代金全額を優先的に回収しているため、住宅ローン債権者や保証会社が反対に回ることは多くないのです。
7.住宅ローンがある場合の個人再生は弁護士に相談を
マイホームがあるにもかかわらず、住宅資金特別条項を用いずに個人再生手続をして、借金の返済負担を無くせないまま、マイホームを手放してしまうことは、出来れば避けたいものです。
しかし、住宅資金特別条項の利用条件や、返済負担の増加の問題、一方で、自己破産手続のデメリットの問題もあり、債務整理の方針の一つとして排除できるものではありません。
いずれにせよ、住宅資金特別条項を用いない個人再生手続は最後の手段です。そこに行きつくまでに、住宅資金特別条項を用いることはできないか、自己破産手続でも、デメリットを回避、あるいは抑制できないかなど、様々な専門的な検討を行うことが必要でしょう。
泉総合法律事務所では、個人再生や自己破産などより、これまで多数の借金問題を解決してきた豊富な実績があります。皆様のご相談をお待ちしております。
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