貸金業者による過払い金返還請求の違い
過払い金返還請求は、2006年に最高裁判所が違法と判断したグレーゾーン金利により利息を取っていた貸金業者から、法律上の根拠なく支払われすぎていた利息を取り戻すものです。
一般的に過払い金返還請求は、貸金業者との交渉で行いますが、貸金業者が十分な金額を支払わない場合には、裁判を起こす必要があります。
貸金業者の従来の業務内容や、現在の経営状況によっては、過払い金返還請求の難易度が大きく変わります。
そこでここでは、貸金業者によって、過払い金返還請求はどのように異なるのか、大まかな目安を説明します。過払い金返還請求を弁護士に相談した際に、弁護士の説明に関する理解を手助けできればと思います。
このコラムの目次
1.そもそも「過払い金」があるのか
最初に説明することは、過払い金の有無についてです。
貸金業者によっては、そもそも過払い金を一切請求できない業者がいます。グレーゾーン金利に基づく利息を設定したことが無い業者です。
過払い金とは、利息制限法の上限金利20%を超えるものの、出資法で犯罪とされていた上限金利29.2%以下の金利、すなわちグレーゾーン金利に基づく利息が違法となったために返還請求できるようになった、20%を超えた部分の利息です。
ですから、もともとグレーゾーン金利で利息を取ったことが無い貸金業者は、利息を「違法に」取りすぎていないのですから、過払い金を一切返還請求できないのです。
2.過払い金を支払う経営状況の余裕
(1)過払い金返還請求による貸金業者への影響
過払い金返還請求は、貸金業者に多大な経済的損失を与えました。それまで高金利で利息を取っていたので、自業自得とはいえ、中小貸金業者は次々と倒産しました。
大手の貸金業者でも、武富士をはじめ倒産する業者は珍しくなく、生き残った貸金業者も、続々と大手銀行の傘下に入っていきました。
大手銀行の傘下に入り、経営状況が持ち直している貸金業者か、それとも、なんとか資本的に独立を維持し踏ん張っている貸金業者かの違いは、貸金業者の態度や倒産リスクに反映されています。
そして、貸金業者の態度や倒産リスクは、過払い金の返還金額や、返還がされるまでの期間の長さに大きな影響を与えるのです。
(2)貸金業者の過払い金返還請求に対する態度
現在、大手銀行の傘下に入った貸金業者は、比較的、経営状況に余裕があるため、交渉段階で早くに多額の過払い金を返還してくれる傾向があります。
一方、大手銀行の傘下に入っていない独立貸金業者は、経営状況に余裕が無いことが多く、過払い金を多く返還させるには、裁判まで徹底して争わなければいけないことがほとんどです。
(3)倒産により過払い金が戻ってこないリスク
銀行傘下の貸金業者は、すぐに倒産するということはまずなくなりました。
しかしながら、経営の独立を保っている貸金業者は、未だに不安定な経営状況にあります。そのため、現在でも、中小業者を中心に倒産が相次いでいます。
過払い金返還請求の相手方貸金業者が倒産してしまえば、わずかな過払い金しか取り戻せません。
貸金業者の倒産による過払い金の回収失敗リスクを出来る限り小さくするには、過払い金返還請求を早期に決着させる必要があります。
しかし、そもそも貸金業者の経営が悪化した最大の原因が、過払い金返還請求です。
結果として、倒産リスクの大きい独立系貸金業者に対しては、時間をかけて裁判をしなければ、十分な金額の過払い金を取り戻せないというジレンマがあります。
3.返還が期待できる過払い金の金額
過払い金が、法律上の最高額のうち、どれだけの割合について現実に返還されるかは、交渉までにするか、裁判で徹底的に争うか、また、取引の内容などの諸事情によっても大きく変わります。
ここでは、先ほど説明した貸金業者の資本関係や経営状況の違いが、返還が期待できる過払い金の金額にどのように影響を与えるのかを説明します。
(1)大手銀行傘下で経営状況がよい貸金業者
このような貸金業者だと、交渉段階で元本の9割を返還する場合もあります。
もっとも、全額を返還してくれるところはなかなかなく、また、過払い金の利息の返還に応じてくれる業者もごく少数です。
特に利息は年5%が過払い金発生時から付きますので、利息が過払い金元本の半分以上にもなることがあります。
利息の返還をあきらめると、裁判で手に入れられるはずの金額の3分の2しか返還されないことがありうるわけです。
しかも、10年以上前に借金をいったん完済していると、それ以前の過払い金は時効にかかっているという反論をしてくることもあり、事情によっては、後述する独立資本の貸金業者と変わらない強硬な姿勢に出てくることもあります。
(2)資本が独立していて経営状況が不安定な貸金業者
交渉ではせいぜい5割、反論できる点があればより低い金額を提示してくることもあります。利息など到底自分からは支払ってくれません。
裁判で勝訴さえすれば、その内容次第では、強制的にこちらの主張通りの過払い金及びその利息全額を支払わせることも可能です。
ただし、強硬に抵抗してきますので、裁判になった後に妥協出来る金額で和解することも検討する必要があります。
4.返還までにかかる時間
(1)大手銀行傘下で経営状況がよい貸金業者
交渉での提示額が高額ですので、こちらとしても、相手が提示した金額をそのまま飲みやすいといえます。
そのため、交渉段階ですぐに話がまとまり、半年もかからずに過払い金が返還されることもあります。
裁判になっても、弁護士費用節約のため、すぐさま支払額をアップして早期和解を提案してくることもありますから、比較的スピーディな解決が見込めます。
ただし、貸金業者が過払い金の支払を拒否できる可能性がある事情があれば話は別です。先ほど説明した金額面と同様、時間の面についても、強硬化した姿勢に対応するために、時間がかかりがちになります。
(2)資本が独立していて経営状況が不安定な貸金業者
端的に言って、元本の半額、つまり、本来の3分の1と言った金額でもよい場合でない限り、長期の裁判の決着がつくまで待つ必要が非常に高いでしょう。
また、あらゆる場面で、引き延ばし戦術を多用します。和解案の中でも、3か月後返還ならば6割だが、半年後なら7割、1年後なら8割と言ったふうに、返還時期を先延ばしにすればするほど、自主的な返還額をあげてくることがあります。
裁判の中でも、すでにこれまでの多数の過払い金返還請求の判決の中で、決着が付いている争点を蒸し返してきます。
中には、必ずと言っていいほど控訴をする業者もいるほどです。
業者の倒産リスクを考慮しつつ、しかし、落ち着いて、長い目で、信頼できる弁護士に対応を任せましょう。
5.過払い金請求は経験豊富な弁護士に相談を
業者によっては、過払い金が一切ないこともあることにまず注意しましょう。
次に、独立系貸金業者は、経営状況がよくないことが多いので、返還額が少なくなりやすく、裁判で強制的に過払い金を取り戻そうとすると、徹底的に争われてしまい、時間もかかりやすいことをあらかじめ覚悟しておきましょう。
銀行傘下の業者であれば、交渉段階で高い割合の過払い金元本返還が期待できますが、高額になりやすい利息まで自主的に返還してくれることはあまりありません。
問題点があれば、ほとんどの業者が、強硬な態度に出てしまうことは、特に忘れないようにしてください。
現在の貸金業者の経営状況や、過払い金返還請求への姿勢、請求に関する事情の中に、どのような問題点がどれだけあるかなど、貸金業者がどれだけ抵抗してくるかの見通しを立てることは、弁護士で無ければ困難です。
泉総合法律事務所は、これまで多数の過払い金返還請求について、任意交渉及び裁判双方の豊富な取扱い経験がございます。是非、お気軽にご相談ください。
-
2019年12月16日債務整理 税金、罰金、養育費など、自己破産しても無くならない借金とは?
-
2018年11月13日債務整理 住宅資金特別条項を利用できない場合に検討するべきこと
-
2019年2月18日債務整理 自己破産と生活に不可欠なライフライン(水道・ガス・電気)への影響