主婦がFX取引の借金を自己破産で無くすために
日々の家事や育児に追われる主婦の皆さんが、パート収入で気軽に資産運用できるFX取引は、インターネットの発達もあり、「ミセスワタナベ」と海外経済誌で名づけられるほど活発になっています。
しかし、FX取引は、莫大な損失を招きかねないリスクの大きな投機的取引です。
インターネットで検索すれば、FX取引で失敗して大損失を抱え込んだ主婦のエピソードがこれでもかと見つかります。
また、FXでできた借金を自己破産で無くすことはできないという噂すら流れている有様です。
実際には、専門家の助言に基づいて行動し、よほど不用意なことをしない限り、FXによる借金でも自己破産で免除してもらえます。
ここではFXで借金を作ってしまった主婦の方のために、自己破産の注意点を説明しましょう。
このコラムの目次
1.FXの借金と自己破産
自己破産手続は、借金全額を支払えない状態(支払不能といいます)になってしまった債務者が、裁判所に申立てをして、自らの財産を債権者に配当する代わりに、借金を原則として全て無くしてもらう債務整理手続です。
自己破産手続により借金が無くなることを免責と言い、裁判所が免責を決定することを免責許可決定と呼びます。
FXで借金を作ってしまった場合、自己破産手続をすることができないという噂は、どうしてあるのでしょうか。
(1)なぜFXの借金は自己破産できないと言われているのか
自己破産手続を定める破産法という法律には、「免責不許可事由」という、原則として借金を免除してはならない事情が定められています。
免責不許可事由の一つには「ギャンブルや浪費」も挙げられています。
FXは、自分の手持ち資金を超えてレバレッジをかければ「浪費」ですし、元手の何倍もの利益を、為替市場の動きから手に入れようとするものですから、「ギャンブル」になります。
そのため、FXによる借金は、免責不許可事由になり、借金が原則として免除されないとの理解が広がってしまっているのです。
(2)現実にはFXの借金でも自己破産できる
実際には、法律上の規定ぶりと異なり、ほとんどの免責不許可事由がある人が免責されています。裁判所が、債務者の一切の事情を総合的に判断して免責を認める「裁量免責制度」があるためです。
免責不許可事由があると、その調査や財産の配当を行う「破産管財人」が選任されます。破産管財人の意見書をもとに、裁判所は裁量免責すべきか判断するのです。
もっとも、免責不許可事由がある以上、100%免責される保証はありません。免責されないリスクを少しでも下げるための注意点は、最後の項目で詳しく説明します。
以下では、FXで借金をしてしまった主婦の皆さんが、心配しがちなことについて、
- さほど心配しないでよいこと
- ある程度注意が必要なこと
- 特に注意が必要なこと
の、大きく3つに分けて、説明をします。
2.自己破産する場合にさほど心配しないでよいこと
(1)ブラックリスト
自己破産など債務整理をすると、貸金業者や銀行などが情報を共有している信用情報機関のリスト、通称「ブラックリスト」に、自己破産したことが登録されてしまいます。
そのため、10年間ほど、ローンを組むことや、割賦払い、クレジットカードの発行、他人の保証人になることができなくなります。
しかし、永久に登録され続けるわけではありませんし、銀行口座の開設やパートの面接に問題が生じることはありません。
(2)子どもへの影響
自己破産をしたことにより、子どもに悪影響が及ぶのではないかと心配になるお母さま方も多いと思います。
しかし、基本的に心配はご無用です。
官報に自己破産をした方の名前や住所、免責の有無が掲載されてしまいますが、一般の方にそれが知られることはほとんどありません。FXによる借金という破産原因はそもそも掲載されません。
ですから、子どもが母親の自己破産を理由にいじめられることはありませんし、ママ友との関係が壊れる心配も(後述しますが、ママ友から借金などをしていない限り)問題はありません。
(3)ご近所に知られないか
ご近所の皆さんに自己破産したことを知られることもまずないでしょう。
子どもに関しての説明で触れた通り、官報により知られる恐れはありませし、また、破産管財人が自宅を訪問するようなことは、財産を隠していることが強く疑われでもしない限り、ありません。
(4)財産の処分
自己破産をすれば、必ずすべての財産を処分しなければならないわけではありません。「自由財産」といって、債務者の生活のため処分されない財産があるからです。
自由財産には、99万円までの現金や、家財道具、さらに、目安としては20万円以下の時価しかない預貯金や生命保険の解約返戻金、自動車などが含まれます。
また、本人以外の財産は、家族の財産であっても処分されません。
裁判所の許可があれば、一定の制約のもと、自由財産の範囲を拡張し、本来処分されるはずの財産を維持することができる場合もないわけではありません。
ほかに、特に注意すべきものを下記で説明します。
(5)マイホーム
マイホームの名義を持っていなくて、かつ、住宅ローンも負担していなければ、処分対象にはなりません。
マイホームが処分対象になる恐れがある場合には、マイホームを維持できる個人再生手続という債務整理を検討してください。
住宅ローンの保証人になっている場合には、親などに代わりに保証人になってもらう必要が生じる可能性があります。
(6)自動車
ローンがあれば債権者に、なくても20万円以上の価値があれば裁判所に処分されます。
車検証の名義や契約内容次第では、専門家でないと理解も対策もできない厄介な問題が生じる恐れがありますので、自動車ローンがある場合には、必ず弁護士にお伝え下さい。
(7)誰が財産を持っているかの判断基準
財産の所有者は基本的には所有名義で判別されますが、例外もあります。
①銀行口座
口座名義は奥様のものでも、入金のほとんどが旦那の給料という場合、その口座の預貯金は、旦那の財産であるとして、処分されない場合があります。
②生命保険
また、同様に、奥様名義の生命保険の解約返戻金も、その保険料を旦那のみが支払っている場合には、処分されない可能性があります。
3.自己破産する場合の簡単な注意点
(1)友人関係について
官報で知られることはまずないでしょう。
問題は、友人とお金や財産のやり取りがあった場合です。
①友人から借金をしていた場合
借金をしていた友人を自己破産手続から除外することはできません。裁判所に債権者と申告し、友人からの借金も免除対象となります。
「債権者平等の原則」と言って、債権者は、友人でもサラ金でも証券会社でも、平等に取り扱わなければならないのです。
②友人だけに借金の返済をしていた場合
債権者平等の原則に反し、支払不能後に特定の債権者にだけ返済することは、「偏頗弁済」と言う免責不許可事由になります。
破産管財人は、偏頗弁済の相手に対して、否認権という権限に基づいて、返済されたお金を取り戻します。
そのため、友人に偏頗弁済をしてしまうと、自己破産がばれるだけでなく、破産管財人からの返還請求を招き、迷惑をかけてしまいます。
③友人に持ち物を売っていた場合
債権者に配当されるべき財産を自己破産手続前に他人に安く売りまたは譲ると、場合によっては、「詐害行為」という免責不許可事由になります。
詐害行為の場合でも、破産管財人が配当のために財産を取り戻します。
(2)離婚について
FX取引のために生活費を使い込んだなど問題が大きい場合、裁判所は、夫からの離婚請求を認める理由にする恐れがあります。離婚した場合、養育費と慰謝料が問題です。
養育費は免責されないのですが、たいていの場合は、母親が子供を引き取りますから、さほど気にする必要はないでしょう。
ただし、慰謝料は注意が必要です。FX取引のために旦那個人のお金に手を付けた、逆ギレしてDVをしたという場合には、元旦那からの慰謝料その他の損害賠償金が免責されない恐れがあります。
(3)スマホの契約解約リスクについて
スマホの通信料を滞納しているとき、または、本体の割賦払いが残っているときは、自己破産でそれらの請求が免責される代わりに、通信契約が解約されてしまいます。
一方、滞納通信料や割賦払い残金を支払うと偏頗弁済になる恐れがあります。親に代わりに支払ってもらいましょう。
家計が同一である旦那に支払ってもらっても、奥様本人が支払ったのも同然とみなされかねませんので、事前に弁護士に確認してください。
(4)保険のパートが手続中できなくなる恐れがある
自己破産手続中は、他人の財産を取り扱う資格が制限されます。
警備員や金融業界などの資格が典型ですが、主婦の方の場合、特に問題になりがちなのが、保険のパートです。保険外交員の資格も、他の資格よりも緩やかとはいえ、制限の対象になっているためです。
パートという働き方なら、直接資格が問題になるか確実なことは言えませんが、あらかじめ、弁護士に働き方や勤務先などを伝え、相談しましょう。
念のため、雇用先に連絡して、手続の間、休職や転属をすることになるかもしれません。
4.自己破産する場合に特に注意するべきこと
(1)裁量免責されるためのポイント
免責不許可事由がある以上は、借金がなくならない可能性はゼロではありません。
裁量免責されるため、以下のことに注意してください。
①手続に誠実に協力する
裁判所や破産管財人からの指示には従い、誠意をもって、手続に協力しましょう。
嘘の説明をすることや協力をしないことは、それ自体が免責不許可事由になります。しかも、裁量免責されるかは裁判所の一存です。
破産管財人は、手続を通して債務者の態度をよく観察し、裁判所に裁量免責すべきかの意見を提出します。たいていは裁量免責されるとしても、油断は禁物です。
逆に、FX以外の問題があっても、問題解決のための手続に誠意をもって、迅速正確な説明と行動をすれば、裁量免責にはプラスになります。
②他の免責不許可事由に該当するようなことをしない
FX以外の免責不許可事由が積み重なっていくと、裁量免責されないリスクも大きくなります。
特に上述した偏頗弁済や詐害行為は、家族や友人との間で実際にしてしまう人がたくさんいます。
また、クレジットカードのショッピング枠で購入した品物などを換金すること、闇金に手を出すこと、支払不能状態を積極的に隠して借金をすることなども免責不許可事由です。
免責不許可事由を回避する基本的な対策としては、借金の返済に困ったら、財産を安易に動かさずに、すぐに弁護士に相談し、自分の場合の注意点を確認することです。
③手続中にFXをしてはいけない
手続中でも借金の原因となったFXをしているようであれば、借金を反省していないとして、裁量免責が認められなくなる可能性は一気に高まります。
破産管財人は、浪費やギャンブルによる借金がある人については、定期的に面談をして家計簿を確認し、生活状況について聴取することがあります。
また、郵便物をチェックし、銀行に隠し口座の有無を照会できます。隠しきることはできません。
④財産を隠すことは本当にしてはいけない!
「財産隠し」は免責不許可事由の中でも最も悪質で重大なものであり、最悪、一発で免責不許可となります。それどころか、犯罪にすらなる恐れがあるのです。
しばしば問題となるものは、旦那など家族と結託して、奥様名義の預金口座から家族名義の口座に預貯金を移すことや、解約返戻金のある生命保険の契約者名義を変更することです。このようなことは、絶対にやめてください。
すでにしてしまっている場合には、正直に弁護士に相談し、その助言に基づいて、裁判所や破産管財人に事実をそのまま伝え、求められる資料を迅速にごまかさずに提出し、財産を提供し、謝ってください。
(2)旦那との関係
主婦の皆さんが自己破産する際に、しばしば恐れているのが旦那にバレることです。
隠し通すことは、出来る場合がないわけではありません。しかし、出来れば、事実を伝え協力を求めた方がよいでしょう。
旦那に自己破産がバレないようにするうえで最大の障害は、旦那の「給与明細書」や「源泉徴収票」などの取得でしょう。
旦那に内緒で上記の資料を手に入れたとしても、今度は各種費用をどのように捻出するかといった問題も生じます。
隠していたことがばれると離婚沙汰に一気につながりかねませんし、弁護士と相談して、冷静に自己破産の影響が旦那にさほど及ばないと説明し、FXには二度と手を出さないと誓い、関係を維持して協力をお願いしましょう。
(3)親への影響
自己破産手続をすると、保証人に、借金残高の一括請求がされます。
親に保証人になってもらっている学生時代の奨学金がまだ残っている場合には、奨学金残高の一括請求をされる親が対応できるよう、事前に必ず自己破産することをお伝えください。
出来れば、親には、先ほど説明したスマホ関連の返済や、これから説明する自己破産手続の費用の援助をお願いしましょう。
5.主婦によるFX取引の借金整理は弁護士に相談を
気軽に始めたFX取引で家計そのものを吹き飛ばしてしまうような借金をしてしまった主婦の皆さん、どうか、落ち着いてください。
自己破産手続は、FX取引による借金でも無くすことができ、また、主婦の方であればさほどデメリットが目立たない手続です。まずは、債務整理に精通した弁護士に相談しましょう。
安易なその場しのぎをしようとせずに、弁護士から言われた通りに、適切な準備をして、裁判所や破産管財人に誠意ある反省と協力をすれば、借金をなくすことは十分可能です。
泉総合法律事務所では、自己破産により借金問題を解決した実績が多数ございます。是非ともお気軽にご相談ください。
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